総務省による働き方改革が進み、「リモートワーク」という言葉が注目を浴びています。
リモートワークとは、会社から自宅やカフェといったような場所から勤務する働き方のこと。
現在リモートワークにおいては、主にチャットやビデオ通話といったツールが利用されていますが、これらの手段では、実際に顔を合わしているような、臨場感を持ったコミュニケーションを代替することはできません。そこで今注目を浴びているのが、VRを使ったコミュニケーション、VR会議です。
既に国内外で多くのVR会議アプリが提供されており、中にはビジネス向けに用途を絞ってつくられているものもあります。VRを使ってバーチャル会議室を設けて離れた場所からでも集まれるようにしたり、自分に似たアバターを使ってバーチャル会議をしたりと、VR会議アプリも種類はさまざま。
そこで、今回の記事では、VR会議アプリを9つ、それぞれのコンセプトや特徴を比較しながらご紹介します。
まずはじめに一般ユーザー向けのVR会議アプリをご紹介します。
AltspaceVRは、2013年にサービスが始まったVR会議の先駆け的存在です。
仮想空間内では、チェスやエアホッケーなどのミニゲームを遊んだり、YouTubeを鑑賞するなどしながら、他のユーザーと交流することができます。
AltspaceVR内では、非常に多くのイベントがスケジュールされており、ユーザーが目的に合わせてVR空間に集うということが一般的になっています。
イベントの種類も多種多様で、例えば毎週水曜日の夜にはEcho Spaceというダンスパーティーが開かれており、DJの音楽を楽しみながら他のユーザーたちとパーティーを楽しむことができます。
そうかと思えばお硬いテーマのイベントも開かれており、たとえば2016年の大統領選挙の際には、AltspaceVRはNBCニュースと提携して「ヴァーチャル・デモクラシー・プラザ」をオープンしました。そこにユーザーたちは集い、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの公開討論を観たりすることができました。
2017年の7月に、経営難によって一時サービス終了の危機に見舞われたAltspaceVRでしたが、その数週間後に復活。10月にはマイクロソフトが同社を買収し、その後も多くのアップデートをしつつサービスを継続中です。ユーザー数もトップクラスで、今後が楽しみなアプリです。
Oculus RiftとHTC Vive、Windows Mixed RealityといったハイエンドPC向けVRデバイスに加えて、Gear VR、DaydreamのモバイルVRにも対応しています。また、ヘッドセットがない場合でも、パソコンからアクセスすることも可能です。
Rec Roomは、シアトルのVRスタジオAgainst Gravityの開発するVR会議アプリです。他のサービスと比べて異なる点は、ゲームを基本としたサービスであること。
ドッジボール、ペイントボーリング(サバイバルゲーム)、テニスやドッジボールなど、複数人で遊ぶためのミニゲームが数多く用意されており、マッチングした人たちと1セット数分で気軽に遊ぶことができます。
日本人ユーザーの少ないVR会議アプリですが、このアプリは英語が喋れなくても安心だと感じました。というのも、コミュニケーションのほとんどが、これらのミニゲームを通じて行われるからです。
ハイタッチのようなちょっとしたスキンシップを取ることもでき、これによって、見知らぬ海外の人たちとも心理的なハードルを感じることなく仲良くなることができます。
新機能の追加も続々と行われており、今後が楽しみなVR会議アプリです。
対応デバイスは記事執筆現在、Oculus RiftとHTC Vive、Windows Mixed Reality、PSVRとなっています。
VRChatは、Graham GaylorとJesse Joudreyによって開発されたVR会議アプリです。ゲーム配信プラットフォームのSteamもしくは公式サイトからダウンロードして使うことができます。
1ヶ月で新規ユーザー数が100万を超えたこともあり、多くのメディアで取り上げられたことから、最も勢いのあるVR会議であるといえます。
一番の特徴はその自由度です。VRChatのユーザーは、3Dモデルを読み込んで自分のアバターとして使ったり、ワールドを自由に構成して世界を作り変えたり、ワールド内でちょっとしたオリジナルゲームを作って遊んだりすることもできます。
一方で、このような自由な遊び方をするためには、UnityやMMDといったソフトを使いこなせる必要があり、始めるにあたっての敷居は高いといえます。また、著作権のある3Dモデルを無許可で使用するユーザーが多数存在しているなど、自由度の高さゆえに無法地帯となっている感があります。
ある程度のITリテラシーがある方にはおすすめです。
対応デバイスは記事執筆現在、Oculus RiftとHTC Vive、Windows Mixed Realityとなっています。
cluster.は、国内のVRベンチャー、クラスターによって開発・提供されているVR会議アプリです。
同サービスを使えば、誰でも手軽にバーチャルルームを開催したり、参加したりできます。イベントやミーティングなど、様々な「集まる」シチュエーションに使えるとしています。
クラスター社はバーチャル上に商業施設をオープンすることを目標としており、今年7月からはバーチャル上での有料イベントを開催するチケット機能のβ版を公開しました。8月31日には有料イベントの第1弾として、人気バーチャルタレント輝夜月の音楽ライブ『輝夜 月 LIVE@Zepp VR』が開催されており、200枚のチケットは即時完売。大きな話題を呼びました。
基本的にすべてのユーザーが同等の権限をもつ(声を発するなど)ことが多い他のサービスと異なり、cluster.の場合、特別な権限を持った人のみが、スクリーン上に画像を映し出したりするなどできるというシステムになっています。
VR空間内でユーザー同士がコミュニケーションを取るよりも、上で紹介したような、大人数を集めてのイベントを行うことに主眼をおいたサービスだといえそうです。
対応デバイスは記事執筆現在でOculus RiftとHTC Vive、Vive Proとなっています。また、ヘッドセットがなくてもパソコンからのアクセスが可能です。
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Oculus Roomsは、Oculus VR社の提供するVR会議アプリです。
このOculus VR社は、2014年からFacebookの傘下です。SNSで世界を制したFacebookが、これからの新しいソーシャルメディアの在り方を考え、VRに投資をするのは考えてみれば当然の運び。それだけに、気合の入った出来のアプリとなっています。
大きな特徴はその手軽さです。機能を削ぎ落とすことで、アプリをユーザー同士の交流に特化させ、Gear VRやOculus Goといった、廉価なVRデバイスでの動作を可能にしています。
そのため、VR世界の中での自由度はかなり制限されています。例えばVRワールドを自由に歩き回ることはできず、派手なシューティングゲームで遊ぶこともできません。
しかし、だからこそOculus Roomsで実現される「誰かと会って話す」という体験の質は、非常に高いものとなっています。例えば、それを実現する要素の一つが立体音響です。右にいる人の声は右の方から、左にいる人の声は左の方から、距離感も反映して聞こえて来るので、本当にその場で誰かと話しているような感覚をもたらします。
これまではGalaxyシリーズとGear VRの組み合わせでしか使えなかったRoomsですが、非常に廉価なスタンドアロンVRデバイスのOculus Go(23,800円)が登場したことで注目を浴びるようになりました。
実際、「Oculus GoとOculus Roomsは今後のコミュニケーションの在り方を大きく変える」として、数多くのメディアで取り上げられています。
対応デバイスは記事執筆現在、サムスンのGalaxyシリーズで使えるGear VRおよび、スタンドアロンVRデバイスのOculus Goとなっています。
Bigscreenは、BigScreen, Inc.の提供するVR会議アプリです。
その名の通り、大きなスクリーンをVRで楽しめるというのがメインの機能のアプリですが、仮想空間で他人とコミュニケーションを取る機能もあり、会議など共同しての作業を行うこともできます。
最大4人が同じ部屋に入って、フレンドと大画面での動画鑑賞、ゲーム画面を出力して対戦プレイ、カラオケなどなど、様々な使われ方をしています。
CEOのDarshan Shankarによると、上位5%のヘビーユーザーは平均して週に20時間から30時間をBigscreen環境で過ごしている(!)とされており、もう既に多くの人々が当たり前のものとしてVR画面やVRソーシャル機能を利用しているようです。
対応デバイスは記事執筆現在、Oculus RiftとHTC Vive、Windows Mixed Realityとなっています。今後、Gear VRなどのスマホVRにも対応していくそうです。
参考:
目の前に広がる大画面とVRコミュニティ – VRソフト「Bigscreen」
これまでに紹介したものはすべて一般ユーザー向けのアプリでしたが、実はビジネスに用途を絞ったVR会議アプリも徐々にリリースされ始めてています。
NEUTRANS BIZは、VRソフトウェアを開発する国内のスタートアップ企業Synamonの提供するVR会議アプリ。現在はクローズドβ版の提供中です。
「身振り手振りを交えながらブレインストーミングがしたい」、「ビジュアルイメージを共有しつつ会議を行いたい」というようなニーズに応え、2018年からビジネス用途に的を絞った本サービスの提供が始まっています。
同社は本サービスを「遠隔からでも複数人が同時にVR空間に接続し、物体や空間のビジュアルデータを共有しながら、ブレインストーミングや意思決定を行うことができる、新時代のビジュアルコラボレーションツール」としています。
会議室に配置される大きなスクリーン上に、自分のPCの画面を投影して共有するということができる機能は便利そうです。また、VR空間内でホワイトボードを用いてアイディアを出す、議事録を取る、タイマーを使うといった、現実世界での会議で行う動作も可能。
さらに、3DCGやCADなどのデータを、そのままVR空間で共有するということもできてしまいます。
対応デバイスは記事執筆現在、Oculus RiftとHTC Vive、Windows Mixed Realityとなっています。
rumiiは、シアトルのIT企業Doghead Simulationsの開発するビジネス向けVR会議アプリです。
ホワイトボード、画面共有に加えて、上で紹介したような3Dモデルの空間上での共有も可能です。さらに、アバターや会議室のカスタマイズも自由に行えるようです。
本サービスは機能制限版であれば無料で試用が可能。また、機能をすべて使える有料プランは月々14.99ドルと、導入費用はかなり安く抑えられそうな印象です。
HTC Vive、Oculus Rift、Windows Mixed RealityといったPC向けVRデバイスに加えて、Windows PC、Android OS、Mac OSといった非VR端末でも動作するようです。
VIVE Syncは、HTC ViveのHTCによるVR会議アプリです。今月8日、サンフランシスコで行われたプレスイベントでアナウンスされました。
HTC Viveの内部開発チームである、2 Bears Studioが製作しています。
VR空間内で共同作業や会議を行うアプリであるという点は上で挙げたものと似通っていますが、VIVE Syncは2つのポイントで差別化を図るとしています。
まず一点目は、セキュリティに特化した会議ツールであるということ。
VIVE Syncは法人向けに特化したアプリで、企業のシステムに統合する形で導入するものとなります。そのため、企業に合わせたシステム設計が可能です。
社外秘の情報も自由にVR空間で共有することができるといいます。
二点目としては、使いやすいアプリであること。
Office365に対応しており、会議のセッティングをしたら、簡単に参加者にメールで共有が可能です。会議に参加するときには、ViveのフロントカメラでQRcodeを読み取るだけでOK。これは便利そうですね。
また、個人的にいいなと感じたのは、VR会議が終わって現実世界に戻ったとき、作業を進めやすいような機能がきちんと揃っていること。
スクリーンショットやビデオ録画、録音が手軽にできるようになっているので、VR世界の情報を簡単に外の世界に”持ち出す”ことができます。
最大で20人が接続でき、3Dモデルの共有ももちろん可能となっています。
VIVE Syncは、12月から、2 Bears Studioが選定したパートナー企業へのパイロット版の提供がスタートします。
参考:
Viveブログ(英語)
いかがだったでしょうか。まだまだ普及段階にあるVRなのに、想像以上の多くのソーシャルVRサービスがあると驚いた方もいらっしゃるかもしれませんね。
今後VRデバイスが浸透し、VR会議が当たり前のものとなれば、人と人の関わり方や、暮らしにおける価値観まで変わってしまうかもしれません。
今後の動向がとても楽しみな分野です。