今後成長が見込まれるAR/VR市場ですが、その成長予測に関しては意見が大きく分かれており、2020年台の市場規模予測は1兆円以下から20兆円規模までの乖離があります。
この市場成長のキーとなる一要素として、VRに広告媒体としての価値がどの程度生み出されるかがあげられます。
なぜなら、VRコンテンツでも、スマートフォンアプリのような広告マネタイズが可能となることで、より多くの事業者がVRコンテンツ市場に参入し、結果としてVR市場全体が拡大するためです。
インターネット関連市場がこれほどまでの価値を持つようになった背景に、Google、Facebookなどの広告メガプラットフォーマーがいることはご存知の通りですが、VRにおいても同じような構造で、新たなメガ広告プラットフォーマーが生まれるのでしょうか?それとも既存メガプラットフォーマーが引き続き覇権を握るのでしょうか?
そこで、今回は国内外のVR広告プラットフォーマー事例と、Google、Facebookといった既存メガプラットフォーマーのVR広告市場への取組みについて紹介します。
※スペースリーの展示場VRのサンプル。VR内に商品ページのリンクはもちろん、画像・動画・商品説明の埋め込みも可能です。
VRize AdはVR内動画広告ネットワークとして運用されており、VRコンテンツ内で動画広告を配信している企業です。VR広告は大きく以下の3つのタイプに分かれています。
①360度動画
②VR空間上の大型スクリーン広告
③VR空間上の3DCGオブジェクト広告
PCやスマートフォンを利用するユーザーに3DCGの広告を配信するプラットフォームであり、様々なデバイスに対応可能です。
リッチな表現力に加え、インタラクティブな体験が可能になります。幅広い表現が可能で、ゲームやブランドの広告として最適です。
2016年10月にはB DASH VenturesやSpeeeから投資を受けています。
Immersvは360度動画、VR動画広告プラットフォームにおいて、世界でも有数なプラットフォーマーです。
「Immersv」をアプリ内のリワード型動画広告の配信ネットワークとして活用することで、360度動画広告をアプリ内で配信することが可能です。
スマートフォン向けのVRに向けた広告配信プラットフォームであり、アプリ、ブラウザからの視聴に対応しています。広告の形式は、360度動画や、VR空間上のスクリーン上を使った広告(Immersiv Surround )などがあります。
最近では日産、起亜自動車、国連、Foxスポーツ、マウンテンデュー、オレオなどに広告提供をしており、マウンテンデューのキャンペーンでは22%と高いクリックスルーレートを達成しました(モバイルの場合1%程度)。
2017年8月に11億円の資金調達をしており、出資元にはグリー、MCJ、East Venture、メタップスなどの日本企業も参加しています。
AdvertyはスウェーデンのVR広告サービス企業で、VR上に広告を表示するシステムを提供しています。
ユーザーのVRへの没入を邪魔することなく、さりげなく広告を配置することを重視しており、VRコンテンツの一部として広告表示する点が特徴となります。
VR空間上での視線やアクションをトラッキング、効果的に広告を表示する仕組みとなっており、「Cost per Brain Impression」という独自アルゴリズムによってユーザーの視線情報を分析し、ユーザーが広告を認知したか計測しています。広告出稿者はユーザーが認知した場合のみ課金されます。
また、「Scene Context」という技術により、ハードウェアやユーザー、プラットフォーム、コンテンツタイプだけでなく、VRコンテンツの文脈に沿った広告表示を行います。
さらに、アプリ開発者側にはリアルタイムに各広告ユニットがインプレッションを発生させているかモニタリングできるツールを提供しています。
過去には、コカ・コーラ社のキャンペーンに参加しており、VRで雪合戦をするゲーム「Merry Snowballs」のVR空間内にコカ・コーラの広告を配置しています。
Omnivirtは360°VR広告のプラットフォームを提供しており、モバイル、デスクトップ上はもちろん、スナップチャット、twitter上での360度広告配信も可能です。
ウェブ広告で使われる、インプレッション、ヒートマップ、セグメンテーションなどを管理運用できる仕組みを提供し、配信だけでなく運用管理までできるプラットフォームとなっています。
VRアプリ開発社側にもアドネットワークを提供しており、アプリソースコード内にコードを埋め込むだけでアプリ内に広告を配信、マネタイズにつなげることが可能です。
顧客にはCNN、NewYorktimes、National Geographic、Google,、ロレアル、フォードなどがおり、多くの大手顧客を抱えています。
Outlyerは360°VR広告のプラットフォームAdvrtasを主にスマートフォン向けに提供しています。
アプリ、ブラウザ上での閲覧を想定し、VRグラス不要で30億以上のデバイスにリーチ可能とアピールしています。
360°VR広告の効果として、通常の9倍のコンテンツ内滞在時間、既存のディスプレイと比較して35倍効果的など、既存広告に対するエンゲージメントの高さを示しています。
また、広告配信のプラットフォームに加えて、広告作成のツール「Ad Builder」も提供しており、特別なツールなしにVR広告コンテンツを作成することができます
顧客にはKFC、マクドナルド、トリップアドバイザー、エクスペディア、ネットフリックス、IBMなどがおり、ファーストフード、旅行業界で活用されています。
Vertebraeは大きく分けて2種類のVR広告を配信しています。
1つは、オリジナルVRコンテンツ内で、企業の商品・サービスを紹介するVRコンテンツを流す広告。もう1つは、VRコンテンツ内のスペースに、企業の商品・サービスの立体物を表示する広告です。
実際の画像に対して、立体物を配置するAR型の広告も提供しており、サングラスのバーチャル試着や、自動車の内装シミュレーションなどに活用されています。
社内にクリエイティブスタジオ、開発者を抱えており、オリジナルコンテンツの開発が可能です。
2015年に米国カリフォルニアで設立されたVertebraeは、これまでに約11億円の資金調達をしています。
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新規のVR広告プラットフォーマーと同様に、メガ広告プラットフォーマーであるFacebook,GoogleもVRへの取組みを加速しています。
Facebookは、360°動画をFacebook内の広告としても活用できるようにしており、ネスレ、ディズニー、AT&T、シャネル、ディオールなど多数の企業が360°広告コンテンツを配信しています。
2014年にVRゴーグル開発のOculusを買収して以降、複合現実(MR)技術開発のMagic Leapに出資、VRコンテンツ作成用360°カメラの発売、低価格のスタンドアロンVRゴーグル「Oculus Go」を発売と活発な動きを見せています。9月27日には、ハイスペックのスタンドアロン「Oculus Quest」も発表されました。
さらに「Facebook Spaces」というVR空間上に自分にそっくりなアバターを自動生成、ボイスチャットやボディトラッキングを含めたコミュニケーションが可能で、これまでのビデオチャットよりもさらに現実に近い対話を提供するアプリケーションも発表しています。
ザッカーバーグはVRのことを「未来のソーシャルプラットフォーム」と呼んでおり、「次のプラットフォームになるのは、VRだと考えています」、「私はVRがプラットフォームの主流になるまでは10年かかるだろうと予測しました。確実なのは、フェイスブックはVRが大化けするまで、投資を続けなければいけないということです。」とコメントしています。
2018年の開発者カンファレンスF8でもAR/VRに関する発表に注力されており、以下のような開発状況がシェアされました。
物理的な空間の3D再構成を生成できるプロトタイプシステム(左が通常の動画、右が3D再構成した動画)ほぼ差がわからないレベル
写真のようにリアルなアバターを生成する研究
以上のように、Facebookはモバイルの次のプラットフォームとしてVRを位置づけ、その実現に向けて投資を続けていくという覚悟を感じさせます。
これらの研究成果を見ると、そう遠くない将来にVR空間がソーシャルプラットフォームとして機能している姿を簡単に想像できます。VRをプラットフォームとして機能させた先には、当然ながらそこにVR広告も盛り込まれることでしょう。
Facebookは、VR広告プラットフォーマーの本命といえるのではないでしょうか。
GoogleもVRに力を入れています。
2014年に発売された安価なVRヘッドセットのCardboardは、Googleが描くVRの未来への第一歩でした。発表からわずか20ヶ月後の2016年1月に500万個以上が出荷されており、今でも世界中で使用されています。
2016年にはVRプラットフォームDaydreamを発表し、Cardboardよりパワフルで、移動性やクオリティに優れた体験を安価に楽しむことを実現。2017年には、Oculus GoのようなスタンドアロンのデバイスDaydream Viewも発売されています。
Google Play、Google マップ、YouTubeなど、VR対応モバイルアプリの開発にも力を入れています。
2015年以降、YouTubeには360°動画をアップロードすることが可能となっており、コカ・コーラ、ナイキ、BMW、GoPro、スカンジナビア航空など多様な業界の企業や、アーティストのミュージックビデオへの活用が進んでいます。
そんなGoogleも、社内インキュベータArea120という仕組みの中でVR広告に関する試みを始めており、Advrと呼ばれるプロジェクトでは、VR空間上に動画を再生するキューブ型の広告実験が行われています。
ユーザーがタップ/視線を固定すると動画プレイヤーが表示される仕組みになっており、他社のVR広告と比べて、よりシンプルなキューブ状のフォーマットを採用することで開発者にとって扱いやすい形式となっています。現在はβ版のSDKが提供されています。
Advrのチームはこの広告フォーマットをGoogle Daydream、CardboardやSamsung Gear VRなどの様々なデバイスに導入しようと考えているようです。
いかがだったでしょうか?
新規プレイヤー、既存メガプラットフォーマーそれぞれがVR広告のプラットフォーマーとなるべく、様々な取組みを仕掛けています。
今後、拡大が見込まれるVR広告市場について、引き続き注目していきたいと思います!