VRと空間データ活用のヒントが見つかる

地方自治体の観光産業をARでサポート 〜凸版印刷社「ストリートミュージアム」〜

 

前回の記事では北海道美唄市における観光誘客に向けたVR活用の例をご紹介しました。スマートフォンアプリによるコンテンツ提供を行っており、アップデートによる柔軟な対応や、コンテンツの保存・オフライン再生などが長所として挙げられました。その一方で、アプリのダウンロードを面倒に感じるユーザーがいるということが短所として挙げられました。

この例に関連して、今回の記事では凸版印刷社が開発した観光者向けのスマートフォンアプリをご紹介します。今回は美唄市の例とは異なり、専門性を持った企業が開発したアプリを通じて各地方自治体が旅行者にコンテンツを提供するという形態を取ったものです。
自治体からすれば、比較的少ない負担で誘致に向けた働きかけができる効率的なサービス形態です。まずはアプリの概要から見ていきましょう。

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凸版印刷社のスマートフォンアプリ「ストリートミュージアム」

今回ご紹介するアプリ「ストリートミュージアム」は、ユーザーとなる旅行者がアプリを見ながら日本各地の城跡を巡るというものです。ユーザーは実際に現地の城跡を訪れ、ARで蘇らせた現存しないお城を楽しむことが出来ます。スマートフォンのGPS機能と連携しており、コンテンツが提供されている城跡に近づくとアプリから通知されます。そこでスマートフォンを城跡にかざすと、画面には当時のお城の姿が現れます。一度訪れた城跡のVR画像は保存が可能で、旅行後にお土産感覚で持ち帰ったり思い出に浸ったりといった使い方もできます。また保存したVR画像を背景に写真撮影も可能で、現存しないお城の前に自分の姿があるというSFのような写真を取ることも出来ます。現在収録されているコンテンツは、江戸城天守閣和歌山城福岡城肥前名護屋城高松城屋嶋城で、今後も順次追加されていく予定です。

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画像: アプリのスクリーンショット (江戸城天守閣)

 

自治体提供のアプリとの違い

前回ご紹介したような自治体が主体となって提供するアプリとの違いとして、このアプリは一度のダウンロードで様々な場所を楽しむことが出来るという点が挙げられます。例えば、東京に到着した旅行者が「ストリートミュージアム」を使って江戸城天守閣を観た後、名古屋に移動して肥前名護屋城を観る、といったような使い方もできます。訪れる場所によって個別のアプリをダウンロードする手間本体容量の圧迫の心配がありません。特に、一箇所にとどまらず一度の旅行で様々な都市を巡るような訪日外国人には嬉しいポイントではないでしょうか。

 

現地でのみ利用可能なコンテンツの長所と短所

 

長所

全国各地の城跡が観光名所として人気があるのは事実ですが、観光客にとってはやはり城跡だけではなく当時のお城の姿を見てみたいはずです。このアプリを使えば当時のお城が実際に目の前にあるような感覚を味わうことが出来るため、城のサイズ感や迫力などを体感したいユーザーには嬉しい体験となるでしょう。そういった意味で、ユーザーにとって現地に実際に足を運ぶための一つのきっかけにもなりそうです。

短所

このアプリは旅行に関する事前情報の提供を目的としたものではないため、潜在顧客にむけて直接的な影響を持つものとは言い難い部分もあるのではないでしょうか。誘客そのものに対する貢献というよりは、実際に現地を訪れた旅行者への付加価値の提供のようなニュアンスが含まれているように思えます。また、旅行新聞の記事で開発者が話しているように、コンテンツの映像的なクオリティも問題点のひとつになるでしょう。どれだけ精密で高品質なコンテンツを制作しても、ユーザーの使用端末通信環境などによって画質はかなり左右されてしまいます。また外国人向けのアプリと言っても過言ではない提供スタイルにもかかわらず、レンタルのポケットWiFi等で旅行中の通信手段を持つ一部のユーザーしか利用できないという点に関しては矛盾も見られます。現地を訪れるアプリの特性上避けられない問題かもしれませんが、今後も改善の余地はありそうです。

 

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「お城」にジャンルを絞ったコンテンツ提供

このアプリは現段階ではに的を絞ってコンテンツを提供しています。今でも、日本特有の建築様式やその美しさに魅せられ関心を持った外国人旅行者が現存する熊本城や大阪城に多く訪れています。しかし、こうしたアプリによって現存しない城郭さえもリアルに体験することが出来るようになったのは、そうした旅行者に対して更なる魅力となるでしょう。近年注目を集めているインバウンド対策にも更なる効果が期待できそうです。また、建築物や美術品等の保存・修復を従来より遥かに容易に実現できるというVRの特徴を最大限に活かしたコンテンツとも言えます。

 

まとめ

今回の例のように、企業が地方自治体に観光資源の宣伝・提供手段を与えるという現象は、近年政府が進めている「観光立国」に向けた社会の動き最新技術の導入に積極的な旅行産業の動きがマッチした結果です。インターネットの普及も旅行業界には多大な影響を与えているため、今後もこうしたVRの活用は進んでいくことが予想されます。

また、今回のアプリでは史跡を蘇らせるという観光目的で利用されたVRですが、少し見方を変えれば、美術品や史料などの修復といった芸術的・学問的な領域でも活用することの出来る技術ではないでしょうか。使い方一つで様々な方向に活躍できるポテンシャルを秘めたVR。今後もどのような活用方法が出てくるか楽しみです。

 

参考資料

凸版印刷|凸版印刷、体験型VR観光アプリを開発 (一般向けニュースリリース)

凸版印刷|凸版印刷、VRとGPSを活用した旅行者向けサービス「ストリートミュージアム」で全国の史跡コンテンツを1つのアプリに集約し、回遊機能を搭載した自治体向けサービスの提供を開始 (自治体向けニュースリリース)

サービス:ストリートミュージアム (公式サービス概要)

参考リンク:
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