事故や病気といった原因で身体が不自由になると、従来の生活を取り戻すためにリハビリが必要になります。
仮に多少の不自由さが残ってしまった場合でも、安心して日々を過ごすためには大切な訓練です。
しかし、これまでのリハビリはどうしても単調なもので、「きつい」「つらい」といった患者さんの精神的な負担も少なからずありました。
そのような患者さんの負担を減らし、リハビリの効率アップを期待されているものが、バーチャル・リハビリテーション(VRリハ)です。
今回は、この新しいリハビリの手法について、詳しく解説します。
この記事が、福祉の現場で働いている方や、実際にVRリハの活用を検討している方へのヒントになれば幸いです。
【目次】
HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いて、VRの映像を見ながら行います。
一部のコンテンツでは、患者さんの状態に合わせて、トレーナー側が訓練内容を調整することも可能です。
実際に、以下のような状態にある患者さんのリハビリにも、積極的にVRが利用されています。
効果が認められた事例は少しずつ増えており、中には「歩行機能を取り戻した」という報告があるほどです。
リハビリの訓練にもVRを導入することにより、患者さんの負担軽減やリハビリの効率化といった、さまざまな効果が期待できます。
リハビリにVRを導入することで得られるメリットは、大きく分けて3つあります。
以下で1つずつ、詳しく解説していきます。
従来のリハビリでは、痛みに耐えられず継続できない人も多くいました。
しかし、VRデバイスを用いたリハビリは没入感があり、ゲーム感覚で楽しく訓練できます。
全て同じゲームというわけではなく、患者さん一人ひとりに適したプログラムを組めるため、より効果的なトレーニングが可能です。
また、リハビリをゲームとして行うことで達成感を味わえるため、モチベーションが向上するというメリットもあります。
楽しいリハビリは、患者さん自身の自発的な行動を促すことができるでしょう。
自宅にいてもリハビリを行うことができれば、通院時間が減り、患者さんのストレスを軽減させることに繋がります。
通院自体が苦手で億劫になる方でも、リラックスしてリハビリを行えるという点も魅力的です。
また、2020年以降に拡大した、新型コロナウイルスの感染拡大防止にも貢献。
患者さんの感染リスクや恐怖心をなくし、安心してリハビリを継続できます。
将来再びパンデミックが起きたとしても、遠隔でのリハビリ方法を確立させていれば、患者さんと病院双方の負担を減らすことが可能です。
従来のリハビリでは、患者さんの治癒状況を数値化することが困難でした。
そのため、改善への道のりが担当トレーナーのスキルに左右されてしまう、という問題点もあったわけです。
しかし、VRを導入してデジタル化することで、リハビリ結果を簡単に数値化することが可能に。
そのスコアを元に、医師が適切なフィードバックを行えるようになります。
加えて、担当のトレーナーが変更になったとしても、同じ内容で訓練することも可能です。
自己流でのリハビリや、過剰なリハビリなどを防ぐこともできるでしょう。
VRによるリハビリには、多くの効果やメリットが見込める反面、デメリットも存在しています。
今回は、主な2つのデメリットをチェックしておきましょう。
VRを使うためには、リハビリの担当者によって、パソコンや周辺機器などの設置・設定をすることが必要です。
また、患者さんがHMDの装着や訓練方法に慣れる必要もあります。
1度で覚えられるものではありませんが、リハビリの担当者や患者さんへの最初の説明で、利用方法を詳しく説明することが大切です。
それぞれに不明な点がないかをしっかり確認しておき、安心して訓練に臨めるよう取り組みましょう。
リハビリにVRを導入する際、一番の問題となる点が導入費用です。
初期投資にコストがかかるため、なかなか導入できないという施設もあるでしょう。
しかし、VRをトレーニングとして導入することにより、従来のリハビリに必要だった人員コストを削減できます。
器具の設置や片付けにかかっていた時間を大幅に減らし、スタッフの業務時間を短縮。
さらに、VRのリハビリは基本的にマンツーマンで済むため、担当者の人数も減らすことができます。
このように人員コストを削減できるため、VR導入は継続的に見ると安い、というわけです。
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ここからは、「mediVRカグラ」を使用した3つのリハビリ事例をご紹介します。
「mediVRカグラ」については、後ほど詳しくお伝えします。
参考サイト:https://www.47news.jp/5460682.html
こちらの記事で取り上げられているのは「水戸黄門ゲーム」で、VR映像内に現れる印籠にタッチして、印籠を集めるという内容です。
脳梗塞が原因で右手がうまく動かせなかった女性ですが、VRでのリハビリを経て、手の震えが止まり体を動かしやすくなると感じています。
また、楽しく続けられる点を気に入り、「リハビリをしようか」と問いかけると快く応じるそうです。
少しずつでも機能改善に効果があり、加えて患者さんのモチベーションアップにも繋がっていることが判明しました。
参考サイト:https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/nc/18/020600014/051900061/
こちらの女性は杖がないと歩けなかったそうですが、VRのリハビリを採用したところ、杖なしで歩けるようになりました。
リハビリを続けた期間は2か月間、週3回行っていたそうです。
座ったままコントローラーで目標をタッチするだけという簡単なものですが、自然と体が動くため、バランス感覚が養われていきます。
その結果、身体を動かす際の正しい姿勢が身につき、安定した歩行機能を取り戻すことに成功したというわけです。
このように、従来のリハビリでは改善できなかった部分に対しても、効果があったと報告されています。
参考サイト:https://style.nikkei.com/article/DGXKZO51278720T21C19A0KNTP00/
脳梗塞により下半身不随となってしまった男性は、週に1度だけVRのリハビリを実行。
自分がどれだけ体を動かせるようになったのか、改善状況がスコアとして把握できるため、楽しく継続できているようです。
さらに、座ることに苦しさを感じていたが、背筋を伸ばして座れるようになったと話しています。
VRによるリハビリは、下肢の筋力にもよい影響を及ぼすため、身体機能の改善に効果的です。
患者さんに無理することなく、楽しんでリハビリを継続してもらいたい場合は、VRを導入することをおすすめします。
今回は、リハビリのためのVRコンテンツ3つをご紹介します。
導入を検討している場合は、予算や目的に応じて決めましょう。
mediVRが提供している「mediVRカグラ」は医療機器に認定されており、以下のような目的があるリハビリに効果的です。
参考として、公開されている医学的エビデンスの中から、mediVRカグラの特徴や応用シーンについて言及している部分をご紹介します。
本機器の最大の特徴は,「座位」トレーニングで歩行(姿勢)・上肢・認知・内耳機能障害および慢性疼痛に対して同時にアプローチできる点にある.
各種パラメーターの設定により身体・認知負荷を調整可能なため,きわめて重度の廃用症候群や心機能障害のある患者から,Mini-MentalState Examination で一桁台の重度認知症患者や高次脳機能障害の患者まで,幅広い疾患群で利用でき,一部その効果が論文として報告されている4~7).
原正彦.VRを活用したリハビリテーション.総合内科系雑誌medicina.医学書院.2021,58,864-867.
このVRリハビリに使用するのは、HMDだけです。
目の前に見えている物を触ろうとする「リーチング」という動作を行うことで、患者さんのバランス能力を判定し、スコアとして提示できます。
患者さん側はゲームで遊んでいる感覚で訓練ができるため、楽しく訓練しているうちに歩行機能などを取り戻すことが可能です。
また、椅子に座ったまま行えるため、転倒のリスクがなく、立ったり歩いたりすることが困難な方でも安心して訓練に取り組めます。
VR最大の難点であるVR酔いについては、発生頻度が0.5%と低確率で、患者さんの負担が軽減されるよう工夫されている点も非常に素晴らしいです。
リハビリの時間を楽しくするだけでなく、モチベーションの向上にも役立つでしょう。
2019年のG20では、医療機器の1つとして、各国の大臣などから高評価を受けた実績もあります。
参考サイト:RehaVR
「RehaVR」は、VR・ARのソフトウェア開発を得意とするsilvereye株式会社のリハビリキットです。
患者さんは椅子に腰かけ、足こぎペダルをこいで、散歩を楽しむ感覚でトレーニングできます。
VRゴーグルに映し出されるのは、国内外にある名所の映像。
コースの数は200以上も用意されており、SDカードを入れ替えるだけで簡単に変更することができます。
映像はペダルの回転に合わせて動くため、速度を変えたり止めたりすることも可能です。
転倒のリスクがなく、かつリラックスしながら下肢トレーニングができます。
導入の際には、3つの機器が必要です。
付き添いのトレーナーは、患者さんが見ている映像をiPadで確認できるため、コミュニケーションをしっかり取ることができます。
普段は会話が少ない患者さんと、自然に話すきっかけにもなるでしょう。
画像引用:https://rehamaru.jp/
株式会社テクリコが提供している、MR(複合現実)を用いたアプリ「リハまる」についてご紹介します。
こちらのアプリは現実の空間にVRコンテンツが重なって映るため、普段過ごしている環境に近い形でのトレーニングが可能。
以下は、実装されているリハビリコンテンツの一例です。
その他、記憶力やワーキングメモリーの改善に効果のあるトレーニングなども実装しています。
このアプリは医科大学と共同研究を行ったうえで制作され、医学会でも優秀賞を受賞しました。
また、臨床研究としてMRリハビリを5日間行った結果、神経心理学検査のスコアがアップしたことを公表しています。
さらに、「リハまる」を利用している北海道の病院では、半側空間無視に効果があったとする症例を報告。
今後もさまざまな症例に対して、認知機能改善などの効果が期待されています。
今回は、リハビリにVRを活用している事例や関連サービスについて、詳しくお伝えしました。
以上の希望が少しでもある方は、ぜひ一度VRの導入を検討してみてください。